March 15, 2016 | Design | a wall newspaper | photo_Junpei Kato text_Takahiro Tsuchida
デンマークのデザイナー、セシリエの家具が〈アクタス〉から登場。感覚と質を重視する彼女の創造性に、日本の木工が応えました。

Q 〈アクタス〉からはどんなリクエストがあったのですか?
日本の家庭向けのダイニングセットを求められました。私が考えたのは、人を迎え入れるような丸みと滑らかさ。日本では茶碗などあらゆるものに、そんな形の魅力がありますよね。テーブルの下に椅子が収まる高さにしたりと、コンパクトな空間を生かすことも心がけました。コンセプトは「緊張感のある親しみやすさ」です。
Q その意味するところは?
やたらとカーブを強調するデザインを私は好みません。引き締まった構築的な美しさがあり、感覚的にはスムーズで心地よいものにしたかった。こうしたイメージは、この家具を製造する飛騨の〈日進木工〉を訪れた後、移動の電車や飛行機の中ですぐに湧いてきました。その後コペンハーゲンのスタジオでスケッチを重ね、試作を始めました。どの曲線も私の手描きがベースで、最後の製造図面への落とし込みだけCADを使います。

最初の試作から家具の完成まで外見では見えないところも含め、ディテールや製法について〈アクタス〉や〈日進木工〉とやり取りを重ね、時間をかけました。わずかな角度の修正に数か月を要することを、私はいといません。これまでも、カップ1つに対して製品化に2年はかかりましたから。
Q 定番的な4本脚の椅子を新たにデザインする難しさとは?
デザイナーとして活動し始めたころ、私は新しい椅子をデザインする意義について悩み、革新性を求めて実験を重ねました。それはいい経験でしたが、結論は4本脚の椅子が最も理にかなっているということ。ベーシックさは往々にして最良の解決策なんです。ただし今も意識は常にオープン。自由に発想して、それを徐々に純粋な形へとまとめていくのです。

黄金期だった20世紀半ば以降、デンマークのデザインは休眠状態でしたが、ここ10年、新ブランドの台頭で急激にトレンドを意識し始めました。しかし、伝統との断絶により、昔からの優れた技術や精神が生かされていない。《MOKU》を作ることで、日本の木工が受け継ぐ技と活気を実感しました。これは大きな財産です。

〈フリッツ・ハンセン〉の《ミナスキュール》はラウンジチェアの快適さをもつ高めの椅子。直線と曲線の見事な調和は《MOKU》と共通する。

