July 23, 2020 | Design, Food, Travel, Vehicle | casabrutus.com
都会から自然の中へ。今でこそ過密を避けるため、なんて理由も思い浮かびますが、そもそもキャンプはすごーく楽しいもの。建築家の谷尻誠さんも愛好家のひとりで、今年から自身がプロデュースするキャンプ事業もスタート。そんな彼に、デザインと機能性の観点からオススメするキャンプギアを選んでもらいました。
・ありそうでなかった、黒のテント。
《ZIZ TENT SHELTER BLACK》148,000円。
ムラコ《ZIZ TENT SHELTER BLACK》
洗練、ミニマル、機能性。谷尻が手がけた建築や空間でただちに思いつくキーワード。その感性や志向はもちろん、キャンプにも貫かれている。数あるテントのなかから、吟味してたどりついたのが〈ムラコ〉。
「黒がいい。それが僕と妻の第一の条件だったんです。テントとしてはあまり用いられることのないカラーリングなのは知っていましたけど、やはり好きな色なので(笑)。キャンプだからって日常の感覚と乖離したくないというか。ひとつながりでいたかったんですよね。つくりもすごくしっかりしているし、愛用しています。工場にもお邪魔したくらいなんですよ」。
もとは埼玉県にある老舗の金属加工工場による新規事業として、2016年にスタートしたブランド。ブラックやグレーなどソリッドなカラーリングに目を引かれるが、ポールやペグなどテントを支えるパーツの信頼性も抜群だ。谷尻はファミリーユースに最適な2ルームテントを使用しているが、シングルやペア向けなどコンパクトなモデルもラインナップする。
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・とにかくシンプルで機能的な焚き火台。
《ワイヤフレーム》16,800円。ステンレススチール製のフレームとワイヤー、特殊耐熱クロスがセットになった折りたたみ式の焚き火台。
モノラル《ワイヤフレーム》《焚き火メッシュⅡ》
キャンプに行ったらやはり焚き火をしたい。いやむしろ焚き火のためにキャンプがある。そう断言してしまいたくなるほど、焚き火の時間は格別。ゆらめく炎、パチパチと薪がはぜる音、煙りの匂い。ああ、これぞ醍醐味! だが近年は、地面に置いた薪でそのまま火をおこす、直火を禁止したキャンプサイトが増加中。そこで必要になってくるのが焚き火台だ。谷尻の場合は〈モノラル〉の《ワイヤフレーム》と《焚き火メッシュⅡ》のセットをセレクト。
「まずはデザインに目がとまりました。フレームとワイヤーでできた構造はとてもシンプルでカッコイイ。付属する耐熱クロスやオプションのメッシュを吊り下げて、そこで燃やす設計なんです。メッシュは通気性がいいから薪はすごくよく燃えるし、網を置けばバーベキューも楽しめちゃいます。かなり機能的なんですよね」。
2010年よりスタートした〈モノラル〉は日本のアウトドアギアブランド。シンプルさと効果的な機能性を両立させ、さらにポータブルであることにフォーカスした開発を進めている。ゆえにこちらの焚き火台も、収納時には直径9cm、長さ35cmのバックパックサイズに。
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・100年以上の歴史を誇る、アウトドア用ヤカンの名作。
《ケリーケトル》7,975円(税込)〜。サイズごとに「トレッカー(0.6ℓ)」「スカウト(1.2ℓ)」「ベースキャンプ(1.6ℓ)」の3種類で展開。素材は、アルミとステンレスの2種類から選べる。
ケリーケトル《ケリーケトル》
小枝や枯葉や松ぼっくり。野山のそこらじゅうに落ちているものを燃料にしてお湯を沸かし、必要があれば簡単な調理もできる、とにかく便利な《ケリーケトル》はキャンプ愛好家の必需品と言ってもいいかもしれない。アイルランドの農夫で漁師でもあったパトリック・ケリー翁(同社社長の祖父)が考案し改良が重ねられ、現在の独自の構造を持つ形になった。なにより驚くのは、このアイデアが生み出されたのは100年以上も前だということ。
「本体が二重構造になっていて、中央で火をおこし、内壁と外壁の間に水を入れて沸かします。それに、先端のところにクッカーを置けば料理もできる。煙突のような形をしているから燃焼効率がよくて、すぐにお湯が沸きます。とてもよく考えられた合理的なデザインですよね。コーヒーが飲みたいと思った時、子どもと枝や松ぼっくりを拾いに行って、遊びながら燃料を集めたりしています」。
もとはアルミ製だったが、現在ではそれに加えて、より丈夫で耐熱性もあるステンレス製も展開している。昔ながらのスタイルを守りながら進化を続けるものづくりの姿勢にも好感。
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・燻製もできる、タフで頼れるアルミ飯ごう。
《ラージメスティン》2,500円。熱伝導に優れたアルミ製の飯ごうで、ハンドルは取り外しが可能。レギュラーサイズの《メスティン》1,600円もあり。
トランギア《ラージメスティン》
スウェーデンで1925年に創業し、現在ではアウトドアクッカーの老舗として知られる〈トランギア〉。50年代に開発された、アルコールを燃料とする《ストームクッカー》は、低温でも風が吹いていても、楽々と料理ができてしまうスグレモノ。長年にわたってキャンパーの支持を集めてきた名品だ。そして70年代より作られているアルミニウム製の飯ごう《ラージメスティン》もまた、同じく機能的なプロダクトとして人気を集める。
「〈トランギア〉の製品は、スウェーデン軍に調理器具として納入されていた実績もあるようですね。それだけ丈夫で機能的で無駄のないギアなんだと思います。もちろんご飯も美味しく炊けますが、燻製料理もすごく楽にできるんです。キャンプに行くと、昼からずっと飲んだりしちゃいますよね(笑)。そんな時に、これを使っていろんなものをスモークして楽しむんです。ウチではよくチーズを燻製にしたりします。お酒にすごく合うんですよ」。
燻製を楽しむ際には、《ラージメスティン用SSメッシュトレイ》を追加で購入を。これさえあれば、蒸し器としても使用できるので、料理の幅はさらに広がりそう。
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・多彩な機能も嬉しい、クーラーボックス。
《クーラーボックス45QT》36,000円。約5cmの分厚いボディに断熱材を充填し、最長でブロックアイスを5日間もキープ可能な保冷力がある。サイズは45QT(42.6リットル)のほか60QT、20QTの3種。カラーはブラック、オリーブ、グリーンを用意。
ドベルグ×アイスランドクーラーズ《クーラーボックス45QT》
せっかくテントをブラックにしたのなら、大きなギアは同じカラーリングで揃えたくなるもの。色味の統一感は、キャンプサイトをすっきりと洗練された空間に仕上げていくアイデアのひとつ。谷尻も少し頭を悩ませて選んだのが、〈ドベルグ〉と〈アイスランドクーラーズ〉がコラボレートしたプロダクトだ。
「黒で揃えたくて選びましたが、見た目だけじゃなくて、保冷力もかなりあります。それに中の仕切り板がまな板として使えたり、角が栓抜きになっていたり、方位磁石が付いていたり。使うかどうかわからないですが(笑)、機能がたっぷり付属しているのもユニークで気に入っています」。
〈ドベルグ〉は2019年に日本で、〈アイスランドクーラーズ〉は2017年にアメリカはテキサスでそれぞれ設立。新しいブランドではあるが、品質やユーザビリティへのこだわりはひとしお。今後の展開にも期待したい。
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・チェアだって、もちろん黒で揃えます。
《チェア・ツー・ホーム》21,000円。現在、〈ブリーフィング〉の直営店舗でのみ販売中。背もたれが長いので、ゆったりリラックスできる。ウェビングテープをデザインに配したミリタリーテイストも魅力。
ブリーフィング×ヘリノックス《チェア・ツー・ホーム》
アウトドアチェアといえば〈ヘリノックス〉と言ってよいほど、もはやキャンプの定番的なブランド。魅力はなんといっても頑丈で、柔軟性があり、とてつもなく軽量であることだ。アルミニウムポールを骨格とした、チェアやコット(簡易ベッド)は2009年の設立以来、あっという間にキャンパーの支持を集めた。そんな同ブランドのアイテムの中から谷尻が推薦するのは、バッグブランドの〈ブリーフィング〉とコラボレーションしたプロダクト。
「ブラックとレッドというカラーリングが決め手でしたが、軽くて丈夫、そしてとても小さくなる設計もいいですよね。キャンプは気を抜くとどんどん荷物が増えてしまうので、収納時にコンパクトであるという点も優れた機能だと思います」。
もとより〈ブリーフィング〉は、タフでファンクショナブルなバッグのラインナップで定評のあるブランド。ゆえにこのコラボレーションは丈夫さや機能性という面で、おのずと相乗効果を期待できる。ブランドカラーがブラックとレッドというのも、もちろん嬉しいポイント。
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・日本の専門メーカーが手がけた寝袋ゆえの。
《RABAIMA BAG W 600》58,000円。ファミリーやカップルなどペアで温まるのにぴったりな、2人用シュラフの春〜秋季モデル。広げれば140×233cmとゆったり、収納時はφ25×40cmと十分コンパクト。そして、なんと永久保証つき。期間を問わず、修理ができる。
ナンガ《RABAIMA BAG W》シリーズ
〈ナンガ〉と聞くと、ダウンジャケットをイメージするかもしれない。しかしもともとは1941年に滋賀県の旧近江町という羽毛布団の産地で生まれた、歴史あるシュラフ(スリーピングバッグ)のブランド。国内で加工された羽毛だけを用いて、熟練の職人がその吹き込みや縫製、そしてメンテナンスを手がける。まさにメイド・イン・ジャパンというにふさわしい、クラフトマンシップが宿された寝袋が揃っている。いくつかの愛用モデルの中でも谷尻家の定番が《RABAIMA BAG W》というシリーズ。
「封筒型の2人用のスリーピングバッグですね。1人用のマミー型と違ってゆったり寝られるのがいい。最近は子どもと奥さんがこれで寝て、僕が1人用の《AURORA》シリーズに押し出された形です(笑)。見た目もシンプルで好みだし、春や秋のキャンプもそれほど高地でなければ十分温かい。なのに軽くてコンパクトになるのは、ダウンのロフトや性能によるものなんだと思います」。
当然、季節やキャンプをする場所によって夜間の気温が異なるため、シュラフはその条件に適したタイプを選ぶのが鉄則。もちろん《RABAIMA BAG W》にも、春から秋用の「600」と、もう少し薄手の夏に適した「400」がラインナップしている。
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・信頼性と安定感バツグンのランタン。
《ギガパワーBFランタン》17,800円。同ブランドのガスランタンの中でも最大光量を提供するモデル。サイト全体を温かみのある光で明るく照らしてくれる。もちろん明るさの調整も可能。
スノーピーク《ギガパワーBFランタン》
自然の中で過ごすので、なにしろキャンプの夜はとにかく暗い。どんなライティングを用意しておくかで、夜の時間の心地よさも変わってくる。光源は電気か炎か。燃料はガスかホワイトガソリンか、あるいはバッテリーか電池か。それぞれに長所があって、一概にコレがベストとはいえないが、品質や信頼性が高いほど、暗い夜でも安心なのは確か。谷尻がセレクトしたのは〈スノーピーク〉の《ギガパワーBFランタン》。
「とにかく明るいガスのランタンです。LEDの白い光とは違って、光源に温かみがあるのがいいですよね。ランタンに限らずキャンプサイトでは〈スノーピーク〉のギアを愛用される方ってたくさんいますよね。それだけ信頼性の高いプロダクトを多く手がけているんだと思います。もっとリサーチして、ユニークなランタンを探そうかとも思ったんですが、この安定感には敵わない(笑)」。
実はキャンプを始めたばかりの頃の谷尻は、〈スノーピーク〉で一式揃えたという経験もあるとか。使い込んだからこそわかる安定感こそ、キャンプのライティングには求められるのかもしれない。
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・仕事だってできる、リモート時代の大容量バッテリー。
《626Wh Smart Tap》66,000円(税込)。高品質のリチウムイオン電池をたっぷり搭載したモバイルバッテリー。スマホやタブレットはもちろん、プロジェクタの上映やデジカメ充電だって可能。サイズは30×24.2×19.3cm、重量は6kg。
パワーアーク《626Wh Smart Tap》
せっかく自然の中に来たのだから、PCはおろかスマートフォンだって使わないというのも、それはそれで素敵なデジタルデトックスのあり方。けれどそこまでハードコアにせず、むしろ日常の延長上にキャンプがあるような楽しみ方もある。
「僕もキャンプと日常を分けたりはしたくない。遊んでいるのか働いているのかわからない、というのが理想的な状態です(笑)。今回の感染症の影響で仕事の方法も変わってきたし、バッテリーの問題さえ解決できれば、キャンプ場でも仕事ができそうだなと思ったんです。それで見つけたのがこのポータブル電源でした」。
〈パワーアーク〉の《626Wh Smart Tap》はラップトップを23回(!)もフル充電できるほどの大容量で、最大出力は300Wとパワフル。なのにサイズは長辺が約30cmほどのコンパクト設計になっていて、持ち運びも楽チン。コンセントやUSBなどの出力も豊富で、これさえあれば屋外での仕事も現実的に。「実は、仕事もできちゃうようなキャンプサイトの運営を計画してるのですが、そこに建てるロッジの電源もこれにしようかと思ってるんですよ」。キャンプ好きの夢が広がる、新しい時代のモバイル電源なのだ。
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・増えたキャンプ道具は、ルーフバスケットへ。
《Trail L》(ブラック)118,800円(税込)。堅牢かつ軽量なアルミフレームに、耐久性のあるブラック粉体塗装を施したルーフバスケット。
スーリー《Trail L》(ブラック)
お気に入りのギアを揃えたら、いざ、キャンプへゴー。しかし油断をしていると荷物がどんどん増えてしまって、クルマに積むのも四苦八苦。そんな時の選択肢は2つ。ギアを厳選し直して、トランクやラゲッジスペースに収めるか。それともルーフバスケットで拡張するか。谷尻の場合は後者で、〈スーリー〉の《Trail L》を愛車のSUVに設置。
「キャンプを好きになるほど、どうしてもギアが増えちゃいますよね。それに、キャンプへ行くクルマは大きいのがいいと思っていたんですが、フォルムの好みを優先してクーペタイプにしてしまったのでルーフバスケットをつけることにしました。〈スーリー〉の製品はとても頑丈で、収納力もある。キャンプ場では荷物の代わりに僕が乗っかってぼーっとしたりしています(笑)」。
最近はあえてギアを少なくして、工夫をしながらその範囲でキャンプを楽しんだりもしているそう。あるいはルーフバスケットの代わりに《ルーフトップテント》にも挑戦してみたいとか。設営も簡単で地面から離れているので、寒さや雨にも強い。キャンプのアイデアはさらに広がっていきそうだ。
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谷尻誠
建築/起業家。〈SUPPOSE DESIGN OFFICE〉代表。広島と東京の2都市を拠点に、住宅から商業施設、ホテルやインテリアまで幅広く手がける。近年手がけた建築に〈hotel koe tokyo〉など。大阪芸術大学の准教授も務める。また今年、プロキャンパーのヒャクタロウと共に、キャンプに最適なプロダクトや環境をプロデュースするブランド〈CAMP.TECT〉を設立。さらに、キャンプサイトを運営する計画も進行中と、キャンプ関連の仕事も話題。